左目の失明により運動能力が低下し、もとの持病が悪化した結果、右足膝下切断となった事案で、失明だけでなく切断との因果関係を肯定した裁判例(東京高裁平成30年7月17日)
左目の失明により運動能力が低下し、もとの持病が悪化した結果、右足膝下切断となった事案で、失明だけでなく切断との因果関係を肯定した裁判例(東京高裁平成30年7月17日)
事案の概要
事案の概要は、被告が運転する貨物自動車が、被害者が降車しようとしていたタクシーに衝突した事故で、被害者が左目失明、右足膝下切断の傷害を負わせたとして被告らに対し損害賠償を請求したものです。
被害者はもともと本件事故前より糖尿病の受けており、左目の視力が相当程度落ちていたものです。
原告(被害者の相続人)は、本件事故による頭部外傷などで、左目に外傷性視神経症を発症し、それにより最終的に左目は失明したものと主張し、本件事故と左目の失明の因果関係が、さらに、左目の失明により、運動能力の相当程度の低下があり、下肢血行の重症化を進めたとして本件事故と左足膝下切断との因果関係が、肯定されると主張しました。被告側は、もともと既往症によるところがあるなどしてそれを争いました。
裁判所は、左目の失明との因果関係については、本件事故による頭部打撲、顔面打撲により左目外傷性視神経症を発症したこと、それのみでは失明まではいかないこと、もともとの糖尿病による障害があったこと、視神経症により最終的に、進行性の視覚障害が出現し失明に至ったと認定し、因果関係を肯定しました。また、切断との関係では、左目失明から、単独歩行が困難となり、歩行機会の喪失したことが間接的な要因となり、心不全の発症により極度の運動低下に陥ったことが直接的な要因で糖尿病が悪化し、最終的に切断まで至ったとし、因果関係を肯定しました。
糖尿病などの持病をお持ちの方が交通事故の被害に遭われるケースは珍しくありません。そして、糖尿病の例でいえば、治療の遅延や症状の悪化などさまざまな影響を及ぼすことがあります。そして、加害者側からは、持病の影響が否定できないから因果関係を認められない、素因減額すべきであるとの主張がなされることが多いです。実際上記事案でも素因減額の主張がでておりますが今回は割愛しております。
本裁判例は、糖尿病などの持病の影響も相まって、交通事故の被害が拡大した場合のケースで意義のある事例判決になると思われます。
- 逸失利益の定期金賠償を認めた事例(最高裁判所令和2年7月9日第一小法廷判決)
- 被害者(女性・80歳・主婦)の逸失利益について、夫と二人暮らし、夫の身の回りの世話をしていたとして家事従事者と認めた裁判例(大阪地裁平成30年7月5日)
- 左目の失明により運動能力が低下し、もとの持病が悪化した結果、右足膝下切断となった事案で、失明だけでなく切断との因果関係を肯定した裁判例(東京高裁平成30年7月17日)
- 評価損として、損傷の部位・程度を考慮し修理費の30%相当額を認めた裁判例
- 被害者の主張する代車費用を認めた事案(大阪地裁平成30年7月26日判決)
- 信号機による交通整理の行われている交差点において,右折合図することなく右折しようとした加害者(タクシー)と,対面信号機の青色表示に従って対向直進した被害者(原動機付自転車)とが衝突した事故において,被害者にも低速で右折を開始している加害者の動静に注視し,その安全を確認して進行すべき義務を怠った過失がないとはいえないとして,過失割合を,被害者側5%,加害者側95%と認めた事案(東京地裁平成30年5月9日判決)
- 事故により右大腿近位外側に皮下組織の損傷による皮膚の陥凹と色素沈着の残存、組織隆起等を残して症状固定となったメディアで活躍できるモデル等の仕事を将来の希望としていた被害者(女性・17歳)の後遺障害慰謝料について、同症状は、後遺障害等級14級5号に該当しないと認定しつつ、その大きさはそれなりに大きいこと、隆起が第三者からも認識可能であること、被害者の年齢、性別、将来の希望等を含め心理的負担を与えるなど事情を総合考慮して20万円の慰謝料を認めた事案(大阪地裁平成30年2月27日判決)
- 追突事故の受傷(頚椎捻挫など)により交通事故直後に予定されていた2件の国際ピアノコンクールへの出場を断念せざるを得なかった被害者(26歳・女性・ピアニスト)の慰謝料について、被害者の経歴や各コンクールで入賞するために努力を継続した事情に鑑みると、被害者の慰謝料算定において十分考慮すべき事情であるした事案(東京地裁平成30年1月29日判決)
- 交通事故の被害に遭う前日に月給70万円とする雇用契約を締結した男性被害者が,交通事故により頚椎捻挫,腰椎捻挫などの傷害を負った場合に,事故前3年間の事業所得が約20万円、0円、105万だったことを考慮してもなお、雇用契約相当の収入を得られる蓋然性があったとして、症状固定日までの約300日間の合計額約792万円の概ね7割に相当する555万円の休業損害を認めた事案(さいたま地裁平成30年1月17日判決)
- 被害者が行使する自賠法16条1項に基づく請求権の額と、労災補償法12条の4第1項に基づき国に移転し行使される上記請求権の合計額が、自賠責保険の保険金額を超える場合、被害者は国に優先して損害賠償額の支払いを受けられると判断した事案(最判平成30年9月27日)