223 実質臓器 脾臓

脾臓は、握り拳の大きさ、空豆のような形、スポンジ状の軟らかいリンパ系の器官で、生体防御のための、以下の3つの機能を有しています。

①老化した赤血球を破壊し、除去することです。

健康な赤血球は脾臓内の網目構造をすり抜けますが、老化、変形した異常赤血球は脾臓内に引っ掛かり、破壊され、肝臓に移されます。

②脾臓は血小板の貯蔵庫としての働きがあり、全血小板数の3分の1を貯蔵し、必要に応じてこれを放出しています。

③リンパ球は、脾臓で作られており、抗体を作って免疫を付与しています。

 

 

脾臓損傷 (ひぞうそんしょう)

 

交通事故では、腹部左側の強い打撲や、高所からの転落により、破裂することがあります。

 

外傷により脾臓を損傷すると、ほとんどで、摘出術が選択されています。

温存では治療が困難なことが多く、さらに、摘出後の人体に対する影響は基本的にはなく、あったとしても、極めて軽微であることが、摘出が選択される理由となっています。

交通事故による脾臓の損傷では、完治か、脾臓摘出かの2者択一となります。

 

脾臓摘出における後遺障害のポイント

 

1)脾臓を摘出しても、特に症状が現れることはないことが通常です。

したがって、脾臓を失っても、職種制限や業務に制限が生じることは通常は、ありません。

機能障害の存在が明確であって労働に支障を来すもの、11級10号にはおよばないとして、胆嚢の摘出と同じ、13級11号が認定されています。

 

2)実質臓器の脾臓を摘出しても、なんの問題も、影響もおよぼさないのかについては、脾臓は、最大のリンパ器官であり、摘出後は、免疫機能を低下させることが指摘されています。

 

脾臓は、肺炎球菌や髄膜炎菌、インフルエンザ菌などの莢膜を持った細菌に対して有効な防御機能を有しており、脾臓を摘出した患者は、特に肺炎球菌、髄膜炎菌または、インフルエンザ菌による感染症に罹患しやすいとされているのです。

WHOも肺炎球菌ワクチンを接種すべきリスクの高い患者として、脾臓摘出者を掲載しています。

成人にあっても、脾臓を摘出した者は、敗血症や播種性血管内凝固症候群を起こす比率が高いと報告されています。

脾臓摘出では、免疫機能を低下させ、感染症に罹患する危険性を増加させることがあるのです。

 

脾臓摘出による13級11号でも、この点に着目、主張して、逸失利益については、全期間において補償されるべきことを請求する必要あがります。

 

※莢膜を持った細菌

莢膜=きょうまくとは、肺炎球菌や髄膜炎菌、インフルエンザ菌など、限られた真正細菌が保有するもので、菌の周囲に、透明な粘液質またはゼリー状の膜で、均一な厚さで層を作っているのです。

白血球による攻撃など、ヒトの免疫機構で排除されることを回避する、怖い働きを有しています

 

※播種性血管内凝固症候群 (はしゅせいけっかんないぎょうこしょうこうぐん)

正常な血管内では、血管内皮の抗血栓性や血液中の抗凝固因子の働きにより、血液は凝固しないような仕組みを有しています。

播種性血管内凝固症候群=DICは、外傷、急性白血病、前立腺癌、肺癌、敗血症などにより、過剰な血液凝固反応が生じ、体内の抗血栓性の制御が不十分となり、全身の細小血管内で血栓が多発して臓器不全となる予後不良の疾患です。

 

 

この記事を書いた人

弁護士法人江原総合法律事務所

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