118 脛・腓骨々骨幹部開放性骨折(けい・ひこつこつかんぶかいほうせいこっせつ)
医学的には、脛骨顆部の最大横径の平方に含まれる部分を近位端、脛骨遠位部の最大横径の平方に含まれる部分を遠位端、それらを除く部位が骨幹部と定義されています。
ここでは、後遺障害を検証する観点から、ちょうど中央部を骨幹部として捉えています。
交通事故における下腿骨々折の中では、最も多発している部位で、脛骨の単独骨折、脛・腓骨の骨折、腓骨の単独骨折の3種類があります。
脛骨は皮膚の直下にあり、骨が皮膚を突き破る、開放性損傷を起こしやすい特徴があります。
①脛骨の下、3分の1の骨折では、骨癒合が遅れ、偽関節を形成しやすい
②骨皮質が多く、海綿骨が少ないためか、骨癒合が得られにくい
①②を理由として、脛・腓骨々幹部骨折は難治性です。
直後の症状は、激痛、腫脹で顔面蒼白状態となり、下肢はぐらつき、立位は不可能な状態です。
単純XP撮影で、容易に診断することができます。
開放骨折では、骨折した骨の一部が、皮膚を突き破って飛び出しています。
基本的に、他の骨折と同じ、非開放性で、転位のないときは、整復の上、ギプス固定がなされます。
※転位とは、骨折部のズレのことです。
転位が大きければ、通常の整復では骨癒合が期待できません。
そこで、かかとの骨にキルシュナー鋼線を入れ、その鋼線を直接牽引します。
その他、皮下骨折で直接牽引ができないような複雑な骨折の場合、キュンチャー髄内固定やねじ・プレートにより、観血的に治療をおこないます。
治療は、圧倒的に手術による内固定が選択されています。
①のキルシュナー固定は骨膜を傷つけることがなく、骨癒合が遷延しない利点があります。
②のAOプレートは強固な固定が得られますが、偽関節の可能性を残します。
これ以外にも、エンダー釘による固定も行われています。
大半の症例で、骨癒合が完了し、抜釘するまでに1年近くを要しています。
高度の粉砕骨折や開放性骨折は、安定性が得られるまでの期間について、上図の創外固定器が使用されています。
脛骨の固定に際しては、以下のようにネジで固定します。
ここでは下腿骨の治療に有効な、イリザロフ式創外固定について、説明します。
この原稿を作成している段階で、バイク事故により、4年以上経過してもなお治療が必要となる事案を担当しておりますが、イリザロフ式創外固定器で治癒を続けています。
特殊な治療方法のためか、主治医がチーム事東北の病院に転院したため、当事務所の依頼者も東北に転院して治療を続けています。
骨癒合が想定どおりに進まなければ、治療期間は当然長引きますし、交通事故被害者の受ける苦痛は、慰謝料において十分に斟酌されなければならない事案です。
脛・腓骨々骨幹部開放性骨折における後遺障害のポイント
1)本症例の後遺障害は、下腿骨の短縮、偽関節、変形癒合、合併症としてコンパートメント症候群、稀に腓骨神経麻痺があります。
2)下肢の短縮障害では、3段階の評価です。
下肢の短縮障害による後遺障害等級 |
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8級5号 |
一下肢を5cm以上短縮したもの、 |
10級8号 |
一下肢を3cm以上短縮したもの、 |
13級8号 |
一下肢を1cm以上短縮したもの、 |
本件では、下腿骨の骨折ですから、左右の膝関節~足関節までのXPの比較で短縮を立証します。
調査事務所の損害調査関係規定集では、下肢の短縮について、「上前腸骨棘と下腿内果下端間の長さを測定し、健側と比較して算出する。」と規定されています。
この方法であれば、パンツを履いたまま計測ができるのですが、これが通用するのは、13級8号、1cm以上の短縮に限られています。
10級8号や8級5号では、調査事務所も画像による立証を求めています。
ここでの問題点は、短縮が0.9mm、2.9mm、4.9mmのときです。
等級認定では、0.9mmは非該当、2.9mmは13級8号、4.9mmは10級8号となります。
しかし、現実の歩行では、0.9mmは13級8号、2.9mmは10級8号、4.9mmは8級5号レベルの支障を残しているのです。
このようなケースについては、形式的な自賠法の認定では、十分な評価が難しいため、訴訟による解決を選択することになります。
訴訟であれば、裁判所は自賠責の認定は尊重するものの、その限界も理解していますので、ある程度柔軟に賠償額を認定してもらえるという実感があります。
なお、短縮障害は、下肢のみに認められる後遺障害です。
3)仮関節とは?
脛骨・腓骨の仮関節による後遺障害等級 |
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7級10号 |
脛骨および腓骨の両方に仮関節を残し、著しい運動障害を残すもの、 |
8級9号 |
脛骨に仮関節を残すもの、 |
12級8号 |
腓骨に仮関節を残すもの、 |
ほとんどの整形外科医は、仮関節ではなく、偽関節と呼びますが、意味するところは同じです。
医学では、骨の一部の骨癒合が得られていないとき、偽関節と診断しますが、
後遺障害では、
①骨折部に、骨癒合が全く認められないこと、
②骨折部に、異常可動性が認められること、
これらの2つの要件を満たしているときに、仮関節と判定しています。
医師の診断と後遺障害の認定基準に解離が生じることがあるため、診断書の診断名だけでは後遺障害の評価は判断できません。
プレート固定がなされている場合、脛骨の骨折部に仮関節が認められるが、異常可動性がない状況が予想されます。
もちろん、抜釘すれば、骨折部は仮関節で異常可動性を示すことになり、抜釘はできません。
抜釘前であれば、異常可動性がなくとも、仮関節は認められます。
3DCTの撮影で、骨折部を360°回転させれば、立証できます。
なお、下肢の短縮障害と仮関節は、併合の対象です。
この記事を書いた人
弁護士法人江原総合法律事務所
埼玉・越谷地域に根差し、交通事故に豊富なノウハウを持つ江原総合法律事務所の弁護士までご相談下さい。交通事故分野における当事務所の対応の特徴は、「事故直後」「後遺症(後遺障害)の事前認定前」からの被害者サポートです。適切なタイミングから最適なサポートをいたします。