147 股関節後方脱臼・骨折(こかんせつこうほうだっきゅう・こっせつ)
乗車中の交通事故で、膝がダッシュボードに打ちつけられ、発症することが多く、dashboard injuryと呼ばれています。
運転席や助手席で膝を曲げた状態のまま、ダッシュボードに膝を打ちつけ、大腿骨が関節包を突き破り後方に押し上げられて発症します。
股関節脱臼に伴い、寛骨臼=大腿骨頭が収まっている部分の骨折も、多く見られます。 全体の70%は後方脱臼となり、以下、これについて解説します。
関節の脱臼につき、脱臼部位の痛み、腫れ、関節の異常可動域、内側に異常に曲がる状態となり、後方に大腿骨が押し上げられ、大腿は短くなっています。
単純XP撮影で大腿骨頭が、寛骨臼から外れているのが確認できます。
後方脱臼では、麻酔下で、外れた大腿骨頭を寛骨臼にはめ込みます。
脱臼に骨折を合併しているときは、スクリューにより、骨折している寛骨臼を固定します。
骨折を合併しているときは、骨折片が坐骨神経を圧迫し、坐骨神経麻痺を引き起こすことがあります。
大腿骨頭は、3本の血管により栄養を送り込まれていますが、脱臼によりこの血管を損傷すると大腿骨頭に栄養や酸素が供給されなくなり、大腿骨頭が壊死に至ります。
股関節脱臼を24時間以内に整復しないと、この大腿骨頭壊死が高率で発生します。
大腿骨頭壊死となれば、大腿骨頭部を切断しそこに人工骨頭を埋め込むことになります。
これを大腿骨頭置換術と呼びます。
寛骨臼蓋の損傷の大きいものは、骨頭だけに止まらず、人工関節の埋め込みとなります。
これを防止するには、いかに早く整復固定をするかにかかっているのです。
骨折を伴わないときは、受傷から12時間以内、骨折のあるものでも24時間以内に整復を実施すれば予後は良好と言われています。
股関節後方脱臼・骨折における後遺障害のポイント
1)股関節の機能障害と痛み、下肢の短縮、大腿骨頭壊死に伴う人工関節置換が後遺障害の対象となります。
2)機能障害による12級7号以上のポイントは、寛骨臼蓋の骨折です。 骨折しているときは、そのレベルと、術式、その後の骨癒合がどうなっているかを、3DCTやMRIで丁寧に立証しなければなりません。
3)術後、主治医から、大腿骨頭壊死の可能性を指摘されることがあるようですが、実際にはあまり起こらないようです。
4)人工骨頭に置換された場合、この骨頭の耐久性が問題になります。再置換術に関する賠償請求については、別途協議とすることが通常かと思います。 人工関節の材質は、ポリエチレンから超高分子量ポリエチレン、骨頭については、セラミックが普及し、通常の生活であれば、耐久性も20年以上とされています。 認定基準は改訂され、人工骨頭、人工関節を挿入置換しても、大多数は10級10号となります。
5)骨盤骨の変形に伴い、下肢の短縮が認められるときは、いずれか上位の等級が認定されます。 本件では、実際に大腿骨や下腿骨が短縮しているのではなく、骨盤骨の変形により歪みが生じたものですが、認定基準は、微妙に修正されています。 骨盤骨の変形は、12級5号ですが、歪みによる下肢の短縮が3cm以上であれば10級8号です。 このときは、10級8号の認定となります。 骨盤骨の高度変形により、股関節に運動障害が生じたとき、これらの等級は併合されます。
この記事を書いた人
弁護士法人江原総合法律事務所
埼玉・越谷地域に根差し、交通事故に豊富なノウハウを持つ江原総合法律事務所の弁護士までご相談下さい。交通事故分野における当事務所の対応の特徴は、「事故直後」「後遺症(後遺障害)の事前認定前」からの被害者サポートです。適切なタイミングから最適なサポートをいたします。