111 変形性足関節症
①骨端部が、棘状(とげじょう)に突出、
②軟骨がすり減り、関節の隙間が一部で狭くなる、
③関節の隙間が、一部で消失する、
④関節の隙間が、全体に消失する、
変形性足関節症では、足関節の軟骨が磨耗することにより、腫れや痛みを発症します。
関節の腫れや内反変形などの視診、触診による痛みの部位、足関節の動き、触った際の骨の変形具合などをチェックし、XP検査で診断を確定させます。
XPは立位で撮影、足関節の裂隙の状態を調べ、変形性足関節症かどうかの診断としています。
変形性足関節症については、加齢等を理由にされることもありますが、以下では、交通事故外傷で軟骨を損傷した後に起こるものを説明します。
①初期、足が軽く内側に傾いている程度あれば、足底挿板、外側に傾斜をつけた靴の中敷を作り、これを歩くときに使用します。
体重が内側にかかるのを避け、外側にも分散させることで痛みがずいぶんと和らぎます。
足の外側、腓骨の後ろの筋力トレーニングを並行して行うとさらに効果的です。
また、関節軟骨の保護のためにヒアルロン酸の関節内注射もよく行われています。
効果が得られないときは、内反変形の矯正のために外側靱帯の再建術を行うこともあります。
②③変形が進行し、軟骨の損傷が激しくなると保存療法によって痛みを緩和することができません。
程度によっては、脛骨の骨切りを行って傾きを矯正する下位脛骨骨切り術が選択されます。
つまり、より軟骨の磨耗の少ない部分に体重を分散させる手術方法です。
脛骨の足首に近い部分で骨の向きを変えて、より軟骨が残っている部分に体重がかかる軸を移動させるものです。
これによって、軟骨が消失して狭くなった関節が開き、軟骨組織が再生することを促します。
下位脛骨骨切り術
④軟骨の摩耗が足関節全体に拡大しているときには、必要に応じて足関節固定術もしくは人工足関節置換術が適用されています。
足関節固定術では、足関節の傷んだ組織を切除し、脛骨と直下の距骨をスクリューで固定します。
固定術は若年層や働き盛りの方が主な適用となります。
固定すると、足首が全く動かないイメージですが、足関節が固定されても、それ以外の足部の関節が動くようになるため、足首が完全に固定されることはありません。
人工足関節置換術では、軟骨を削り人工の関節を挿入します。
置換術により、痛みが軽快し、足首の可動域も確保できますが、1つ、耐用年数という壁があります。
2つは、傾斜変形が強いときは、バランスの問題が生じることから適用になりません。
この手術ができる人は、限られています。
それぞれ長所と短所があり、軟骨損傷や傾きのレベル、年齢や活動性が考慮され、手術方法が選択されています。
変形性足関節症における後遺障害のポイント
1)変形性足関節症は、変形に伴う痛みと、足関節の可動域制限が後遺障害の対象となります。
①レベルⅠは、常識的には、痛みで14級9号となります。
②レベルⅡ、Ⅲでは、足関節の可動域制限で12級7号が認定されることが多いです。
ただし、下位脛骨骨切り術が成功したときは、痛みで14級9号、もしくは非該当になります。
③レベルⅣで足関節固定術がなされたときは、足関節の用廃で8級7号となります。
人工足関節置換術では、10級11号が認定されますが、人工足関節置換術は、少数例です。
2)後遺障害の立証は、XPとCT3D撮影で行い、軟骨損傷が大きいときは、MRIも有効です。
①レベルⅠⅡでは、健側、患側の足関節XP正面像を提出、左右の比較で変形を立証します。
健側については、治療上は必要が無いとして、撮影をしないケースもありますので、どのように違うのかを確認する趣旨で、撮影を依頼してみてください。
②レベルⅢ、下位脛骨々切り術が実施されても、イラストにあるような完璧な修復は期待できません。
修復が不十分で、変形を残しているときは、XP、CTで変形を立証し、可動域の制限と併せて適切な後遺障害の認定を期します。
③レベルⅣでは、大多数に足関節固定術が選択されています。
XPで固定術が実施されたことを立証すれば、8級7号が認定されるのが通常です。
3)ところで、症状固定後、数年を経過して、変形性足関節症が進行し、結果として、足関節固定術に至ることがあります。
このような可能性が想定されるときは、医師に見込みを良く確認の上、以下のように対応すると良いでしょう。
①後遺障害診断書の、障害内容の増悪・緩解の見通し欄に、「将来、変形性足関節症が進行する可能性が予見される。」と、医師の記載を受ける。
②示談書には、「本件事故に起因する足関節変形症が発症した時は、別途協議する。」
念のため、この文言を記載しておく必要があります。
このように、後日足関節変形症が進行し、手術の必要が生じた場合、通常は、手術後に、再び、症状固定として、自賠責保険に対して後遺障害の認定を求めます。事故との因果関係が立証されれば、足関節の固定術として、足関節の用廃で8級7号が認定されるのが通常です。
なお、通勤途上や業務中の交通事故であれば、労災保険に請求することもできます。足関節固定術の実施が決定したところで、労働基準監督署に対して再発申請を提出します。労災保険から支給される休業補償は、一部損害額に充当されない部分がありますので、原則として申請すべきです。
ただし、当初症状固定の翌日から5年が経過すると、そもそも労災保険に対する請求が時効によりできなくなりますので、初期の段階から請求を忘れないよう、注意が必要です。
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この記事を書いた人
弁護士法人江原総合法律事務所
埼玉・越谷地域に根差し、交通事故に豊富なノウハウを持つ江原総合法律事務所の弁護士までご相談下さい。交通事故分野における当事務所の対応の特徴は、「事故直後」「後遺症(後遺障害)の事前認定前」からの被害者サポートです。適切なタイミングから最適なサポートをいたします。