295 下顎骨骨折 (かがくこつこっせつ)
①オトガイ部(正中部) ②下顎体部 ③下顎角部(埋伏智歯部) ④下顎頸部
下あごの骨折で、顔面部の骨折では、最も多発例です。
交通事故では、バイク、自転車で走行中、自動車と出合い頭衝突などで転倒した際の外力で、下顎の骨折は発生しています。
症状としては、
①咬合不全、
②疼痛、口腔内や皮下の出血、腫れ、開口障害、流涎=よだれ、言葉の不明瞭化、
③歯牙の歯折、脱臼
④下あごの変形、
⑤顔面神経麻痺、特に、唇や下顎のしびれ、
⑥関節突起骨折では、外耳道出血が見られることもあります。
上記の6つが予想されます。
顔面骨折の診断では、受傷時にどのような外力がどの方向から作用したかを知ることが骨折の部位や程度を診断する上で重要です。
XP撮影に加えてCT撮影を行うことは、骨折の位置や程度を把握する上で非常に有効です。
特に3DCTは3次元画像で見ることが可能で、非常にわかりやすいものです。
上顎・下顎骨々折における後遺障害のポイント
1)上顎・下顎の骨折は、形成外科と口腔外科を中心に、形成外科が共同してオペや治療を担当しています。
2)後遺障害は多岐にわたるため、1つ1つを丁寧に立証していかなければなりません。
①咬合不全は、オペ、オペ後の顎間固定など、苦痛の伴う療養生活が続きますが、優れた口腔外科医であれば、限りなく元通りに修復します。
不可逆的な損傷で、咬合不全を残すときは、バントモXP撮影、CT、3DCTで骨折線などを立証し、咬合不全に伴うそしゃくの障害は、口腔外科の主治医の、「そしゃく状況報告表」の作成で、まとめます。
咀嚼とは噛み砕くことですが、この機能障害は不正な噛み合わせ、咀嚼を司る筋肉の異常、顎関節の障害、開口障害、歯牙損傷等を原因として発症します。
咀嚼の機能を廃したものとは、味噌汁、スープ等の流動食以外は受けつけないものであり、3級2号が、咀嚼の機能に著しい障害を残すものとは、お粥、うどん、軟らかい魚肉またはこれに準ずる程度の飲食物でなければ噛み砕けないものであり、6級2号が、咀嚼の機能に障害を残すものは、ご飯、煮魚、ハム等は問題がないが、たくあん、ラッキョウ、ピーナッツ等は駄目なケースであり、10級2号が認定されます。いずれも先の原因が医学的に確認できることを認定の条件としています。
②歯牙の歯折・脱臼、
歯の後遺障害では、事故以前の虫歯なども含め、加重障害として等級が認定されています。
そして、加重障害の計算は、単純な差引ではなく、とても複雑なものです。
まず、基本的な用語を学習します。
※補綴(ほてつ)とは、対象の歯を削り、人工のもので補ったことを補綴と呼び、以下の2つに分類されます。
ⅰ交通事故で受傷した歯の体積の4分の3以上を、治療上の必要から削ったもの、
ⅱ交通事故受傷ではないが、治療の必要から、健康な歯の4分の3以上を削ったもの、
ここでいう歯とは、歯茎の上、見える部分=歯冠部のことです。
交通事故で歯を欠損、抜歯した後に、喪失した歯の部分に人工歯を設置するブリッジがあります。
ブリッジでは、両サイドの健康な歯を削り、橋のように3本がつながった人工歯を被せて固定します。
ブリッジ インプラント 入れ歯
※欠損とは、交通事故により、歯が折れたもの、
※抜歯とは、
交通事故により、歯がぐらつき、治療上の必用から歯を抜いたもの、
大人の歯、つまり永久歯は上が14、下が14の計28本の歯です。
歯の後遺障害等級は、10級3号~14級2号まで、5段階で評価されています。
では、後遺障害等級を決める加重計算を説明します。
まず、交通事故で障害された歯と交通事故により補綴を余儀なくされた歯の本数をカウントします。
次に、事故前からの既存障害歯の本数をカウントし、2つを合計した本数を算出します。
※既存障害歯
交通事故以前に、虫歯で大きく削られた歯、金属や冠で治療したもの、
クラウン、入れ歯、インプラント、抜けたまま放置されている歯のことです。
合計の本数を現存障害歯として、上表から後遺障害等級を求めます。
次は、交通事故以前からの既存障害歯の本数について、上表から後遺障害等級を求めます。
現存障害歯の自賠責保険金-既存障害歯の自賠責保険金=加重後の自賠責保険金となります。
Q 虫歯の治療で4本に金属を被せ、他の2本は抜けたまま放置していたところ、交通事故により、2本の歯を根元から歯折しました。1本はインプラント、もう1本は、両サイドの歯を大きく削り、ブリッジで補綴する治療となった場合の後遺障害等級については、既存障害歯は、虫歯の4本、抜けたままの2本で6本となります。 交通事故による障害歯は、インプラント1本、ブリッジによる3本の補綴で4本となります。
現存障害歯は、6+4=10本であり、等級表から11級4号となります。
既存障害歯は、6本ですから、5本以上で7本以下、つまり13級5号となります。
11級、331万円-13級、139万円=192万円が加重障害後の自賠責保険金となります。
なお、歯の加重障害を適用して保険金を差し引くよりも、歯の後遺障害を抜きにして、
他の障害が併合されたことによる保険金が、被害者に有利な計算となれば、
加重分の保険金を差し引かない特別なルールが適用されます。
最後になりますが、親知らず=3大臼歯、乳歯の喪失は、当然のことですが、評価の対象外です。
歯の後遺障害診断では、専用の後遺障害診断書を使用します。
③上下のあごの変形
交通事故による不可逆的な上・下顎骨の粉砕骨折などで、上・下顎に変形を来したときは、醜状瘢痕として後遺障害を申請することになります。
当然、上・下顎骨の変形に伴うそしゃくや言語の障害も後遺障害の対象になり、3つは併合されます。
開口は、正常であれば、男性で55mm、女性で45mmが日本人の平均値です。
これが2分の1以下に制限されると、開口障害により咀嚼に相当の時間を要することになり、12級相当が認定されます。
男女とも、指2本を口に挿入できなくなったときは、後遺障害の対象となります。
参考までに、そしゃく筋について、追加的な説明をしておきます。
下顎骨の運動は、咀嚼筋と呼ばれる筋肉が主に働きます。
この筋肉は、随意に動かすことができ、下顎を上顎に対して上下する、水平に移動することで、歯が食物を噛み切ったり、すりつぶしたりすることができるのです。
咬筋は、硬い食物を噛み砕くときに働き、こめかみには、閉口や顎を後方に引くときに働く扇形の側頭筋があります。
顎を前に突き出すのは咀嚼筋の中で最も小さい外側翼突筋と呼ばれる筋で、開口や下顎の緊張に働く筋です。
顎を開けるとき、咀嚼筋の力を抜くと下顎の重さにより開口します。
大きく口を開いて食物を口に入れるときには、舌骨上筋が主に働き、このときに外側翼突筋は顎を開けやすいように前方移動します。
また、食物を口に入れ、咀嚼時に食塊を口の奥のほうに押し込むのには、表情筋が働きます。
この記事を書いた人
弁護士法人江原総合法律事務所
埼玉・越谷地域に根差し、交通事故に豊富なノウハウを持つ江原総合法律事務所の弁護士までご相談下さい。交通事故分野における当事務所の対応の特徴は、「事故直後」「後遺症(後遺障害)の事前認定前」からの被害者サポートです。適切なタイミングから最適なサポートをいたします。