276耳鳴り
耳鳴りとは、どこからも音が聞こえないのに、耳あるいは頭蓋内に音を感じる状況です。
被害者の多くは、昼間は何ともないが、夜、布団に入るとジンジン、ザワザワとして眠れない等の訴えがあります。
聴覚伝達路やその周辺に何らかの異常があって発症すると考えられていますが、医学的には未だ十分に解明されていない状況のようです。
交通事故では、自律神経失調症による、血流障害が1つの原因とされていますが、これが原因である場合には、バレ・リュー症候群ですから、後遺障害の対象とすることは難しい案件です。
では、後遺障害の対象となる耳鳴りを解説していきます。
耳鳴りにおける後遺障害のポイント
1)ムチウチ、頚部捻挫を原因とする耳鳴りは、これまで後遺障害としては、認定対象外でしたが、後遺障害として認定されることが出ています。
2)頚椎捻挫では、整形外科・開業医におけるリハビリ治療が中心となります。
しかし、受傷直後から耳鳴りが感じられるときは、整形外科においてもその症状を訴え、カルテに自覚症状として、耳鳴りの記載を受けなければなりません。
そして、日を置かずに、耳鳴り外来が設置されている耳鼻科を受診するのです。
耳鼻科では、難聴を確認する目的で、オージオグラム検査が行われます。
検査結果表の下部には、標準純音聴力検査における平均聴力レベルが記載されています。
3分法、4分法、6分法で左右の聴力が記載されているのですが、注目すべきは、6分法です。
6分法における平均聴力レベルが、30デシベル以上であれば、後遺障害の対象となります。
耳鼻科で治療を開始、受傷から6カ月を経過してなお耳鳴りの症状が改善しないときは、耳鼻科で後遺障害診断をお願いすることになります。
耳鳴りを立証する他覚的検査は、純音聴力検査機を用いるピッチ・マッチ検査、ラウドネス・バランス検査、マスキング検査等ですが、さらに精度の高い新兵器として、リオン株式会社の耳鳴り検査装置、TH-10と耳音響放射装置、OAEが登場しています。
3)症状固定段階で、ピッチ・マッチ検査を受け、耳鳴りの音質を、さらに、ラウドネス・バランス検査で耳鳴りの音量を立証します。
①30dB以上の難聴を伴い、著しい耳鳴りを常時残すことが、ピッチ・マッチやラウドネス・バランス検査で立証できるものは、12級相当が認定されています。
②ピッチ・マッチやラウドネス・バランス検査で立証はできないが、30dB以上の難聴を伴い、常時、耳鳴りを残すものであれば、14級相当が認定されています。
上記は、労働災害補償保険の認定基準から引用していますが、自賠責保険では、これらの認定基準が明確ではないため、正確なところは分かりません。
ちなみに、労災保険では、「ピッチ・マッチ検査などで裏付けることはできないものの、症状に一貫性があるなど、耳鳴りがあることが窺われるものは14級を認定します。」 と説明されています。
頚椎捻挫の逸失利益は、裁判であっても14級9号で5年、12級13号で10年程度が相場ですが、耳鳴りで12級相当が認定されたときは、原則として67歳までの分を請求します。
受傷から3カ月以上経過した時点で、耳鼻科を受診、耳鳴りが立証されたとしても、本件事故との因果関係を立証することが困難になっていきます。
健康診断では、オージオメーターを使用して1000HZと4000HZで検査を行っています。
1000HZでは、日常会話に必要な聴力のレベルを調べ、
4000HZは、高音域で発生する難聴を早期に発見する必要から調べているのです。
つまり、オージオメーターから発生する大小の音を聴き取れるかで難聴を判定しているのです。
1000HZにおける正常値は、0~30dB
4000HZにおける正常値は、0~40dB
いずれも、0に近いほど、よく聴き取れることになります。
19歳では、正常値は0dBですが、年齢により聴力も衰えることから、範囲設定がなされています。
難聴で身体障害者手帳の交付がなされるのは、聴力レベルが70dB以上からです。
伝音性難聴は補聴器で矯正できますが、感音性難聴は矯正ができません。
5)6分法で30デシベル以上の難聴を立証できないときは、耳鳴りで後遺障害の認定はありません。
※オージオグラムの見方
耳の聞こえを、図表で表したものをオージオグラムといいます。
縦軸の聴力レベル、dBデシベルの数値が大きい程、聞こえにくくなり、横軸の周波数は、125Hzが低音、8000Hzが高音となります。
聴力検査には、気導聴力検査と骨導聴力検査の2種類があります。
気導聴力検査は、ヘッドホンを耳にあてて検査しますが、反応があると、右耳は赤い○、左耳は青い×で表示します。
もう1つの骨導聴力検査は、カギ括弧[ ]で表示され、右が[、左が]となります。
骨導とは、振動で音を伝える方法であり、耳の裏にある骨に振動を加えて、音を伝えます。
これにより、直接音を感じる内耳に、音を伝えることができます。
なお、骨導聴力検査では、125Hz、8000Hzは調べません。
この記事を書いた人
弁護士法人江原総合法律事務所
埼玉・越谷地域に根差し、交通事故に豊富なノウハウを持つ江原総合法律事務所の弁護士までご相談下さい。交通事故分野における当事務所の対応の特徴は、「事故直後」「後遺症(後遺障害)の事前認定前」からの被害者サポートです。適切なタイミングから最適なサポートをいたします。