227 管腔臓器 小腸穿孔 (しょうちょうせんこう)
昔は、自動車でもハンドル外傷が大多数でしたが、シートベルト装着が義務化され、激減しています。
今、ハンドル外傷は、自転車、バイクで見られ、転倒したときに腹部に加わる衝撃でも発症しています。
小腸や大腸などの管腔臓器が損傷され、腸管の壁に穴が開いたときは、腸の内容がお腹の中に漏れ出すことにより、腹膜炎を発症します。
腹部全体は、板のように硬化し、体位の変換では、腹部痛が増強します。
お腹を押し、指を離したときに強い痛みを感じるブルンベルグ徴候も認められています。
管腔臓器の穿孔では、血液検査で白血球が増加しており、立位の腹部XPで、横隔膜下に遊離ガス像、Free Airが見られることがあります。
小腸などの管腔臓器の穿孔では、開腹手術が選択され、穿孔部の縫合や、腸切除による吻合術が行われています。
小腸穿孔による後遺障害の対象は、以下の4つです。
1)消化吸収機能の障害を残すもの、
2)小腸皮膚瘻が認められるもの、
3)人工肛門が造設されたもの、
4)腸管癒着を残すもの、
小腸穿孔における後遺障害のポイント
1)消化吸収機能の障害を残すもの、
外傷による消化吸収機能の障害は、小腸の大量切除で栄養を吸収する面積が著しく減少することで、発症するもので、小腸の大部分は空腸、および回腸で占められており、残存している空腸や回腸の長さを基本として、後遺障害等級が定められています。
①外傷により小腸が切除され、残存空・回腸の長さが75㎝以下となったものの、経口的な栄養管理が可能なものは、9級11号が認定されています。
短腸症候群であり、消化吸収機能が低下していることは明らかですから、消化吸収障害の有無を立証する必要はありません。
※短腸症候群
短腸症候群、SBSは、小腸大量切除により、吸収面積が減少し、水分、電解質、主要栄養素、微量元素、およびビタミンなどの吸収が障害されることで生じた吸収不良症候群のことです。
短腸症候群の吸収不良は、一次的には小腸表面積減少の結果ですが、腸通過時間の短縮も影響しており、栄養素や水分の吸収がともに障害されています。
②外傷により小腸が切除され、残存空・回腸の長さが、75㎝以上、100㎝以下で、経口的な栄養管理は可能であるが、消化吸収障害が認められるものは9級11号が認定されています。
残存空・回腸の長さが75㎝以上のときは、消化吸収機能には、個人差が認められており、残存した部位の長さだけに着目するのではなく、消化吸収障害を検査で立証しなければなりません。
72時間蓄便中脂肪量の直接測定法とd-キシロース吸収試験での立証が考えられます。
※72時間蓄便中脂肪量の直接測定法
1日に100g以上の脂肪を摂取した上で、便を3日間採取して、便中総脂肪量を測定します。
便中脂肪量が1日当たり6g以上は異常、消化吸収の機能が低下していると評価されます。
※d-キシロース吸収試験
絶食後、25gのd-キシロースを200〜300mLの水に溶かして経口投与させ、尿を5時間にわたり採取し,静脈血を1時間後に採取する。
血清d-キシロース20mg/dL未満、または尿サンプル中d-キシロース4g未満は、消化吸収障の機能が低下していると評価されます。
追加的な立証としては、低体重の要件を満たさなければなりません。
低体重等については、BMIが20以下のものを言い、術前と比較して10%以上減少したものも含まれています。
※BMI
体重と身長から、人の肥満度を示す体格指数で、体重÷(身長)2で求めます。
BMI指数は、22が標準値であり、最も病気になり難い状態と言われています。
BMIが25以上では、肥満と判定され、生活習慣病を引き起こす可能性が懸念されます。
なお、残存空・回腸の長さが300㎝を超えていれば、通常、消化吸収障害は認められません。
③小腸には予備能があり、相当程度の切除を行っても、消化吸収障害をきたすことはありませんが、残存小腸が75㎝未満では、相当程度の消化吸収障害をきたし、中心静脈栄養法や経腸栄養法が、常時、必要となることが予想されます。
労災保険では、治療が不可欠であるとして、治癒とは認めていません。
自動車事故における後遺障害等級は、残存した後遺障害の労働能力におよぼす支障の程度を総合的に判定することとされており、具体的な認定基準は、定められていません。
無条件で別表Ⅰの1級2号ではなく、個別に、支障を立証していくことになります。
※中心静脈栄養法
鎖骨下静脈などから、心臓に最も近い大静脈までカテーテルを入れて輸液ラインを確保し、このラインを通して栄養補給する方法で、輸液ラインを常に留置しておくことで、点滴のたびに静脈に針を刺さなくて済みます。
※経腸栄養法
鼻腔から、胃や12指腸までチューブを通し、その管を使用して栄養補給する方法ですが、腹壁から胃へのルート、胃瘻を造設することもあります。
経口摂取はできないが、消化管の機能は保たれている患者に対して施行されています。
2)小腸皮膚瘻が認められるもの、
瘻孔、ろうこうとは、皮膚・粘膜や臓器の組織に、炎症などによって生じた管状の穴のことで、体内で連絡するもの、体表に開口するもの、2種類があります。
胃瘻・腸瘻・痔瘻などがあり、胃、腸、膀胱では、栄養補給や排出の必要から、人工的に造設することもあり、これは、瘻管と呼ばれています。
皮膚瘻は、主に腸管からお腹、特に、おへそ付近に貫通するのですが、突然、ぷっくりと赤く腫れて来て膿のようなものが溜まり、腫物が破れ、膿のようなものが出てきます。
根本的な炎症を解決しなければならず、放置しておいて治癒することはありません。
小腸の内容物が飛び出てくる皮膚に開いた穴を、小腸皮膚瘻と呼んでおり、極めて厄介なものです。
小腸皮膚瘻は、小腸内容が皮膚に開口した瘻孔から漏れ出る病態で、大量に漏れ出るときは、小腸の消化吸収機能や運搬機能、さらには肛門の排泄という機能が損なわれることになります。
永続的にこのような状態が持続するときは、後遺障害として評価されています。
後遺障害の程度は、瘻孔から漏れ出る量によって異なります。
小腸内容からの栄養の吸収が障害されたときには、栄養障害も生じることになるが、本件では、小腸皮膚瘻が生じ、小腸内容が大量に出ることによる障害であることから、小腸皮膚瘻の障害等級と小腸皮膚瘻が生じた部位以下を切除したとみなした障害等級のうち、いずれか上位の等級により認定されています。
①パウチの装具による維持管理が困難な小腸皮膚瘻で、小腸内容の全部、あるいは大部分が漏出して汚染されており、瘻孔部の処理を頻回に行わなければならないものは5級3号が認定されます。
パウチの装具による維持管理が困難とは、小腸内容が漏出することにより、小腸皮膚瘻周辺に著しい皮膚のただれ、びらんを生じ、パウチなどの装着ができないものを言います。
②常時、パウチの装着を要するもので、小腸内容の全部あるいは大部分が漏出するもの、または、漏出する小腸内容がおおむね、1日に100ml以上であって、パウチなどによる維持管理が困難であるものは7級5号が認定されます。
常時パウチの装着を要するとは、漏出する小腸内容がおおむね、1日に100ml以上である状態です。
③常時、パウチの装着を要するもので、漏出する小腸内容がおおむね、1日に100ml以上のもので、7級5号から除かれたものは9級11号が認定されています。
④常時、パウチの装着は要しないが、明らかに小腸内容が漏れるものは11級10号が認定されます。
⑤いわゆる粘液瘻については、小腸皮膚瘻ではあるが、明らかに小腸内容が漏れ出ているとは言えないところから、後遺障害には該当しません。
3)人工肛門が造設されたもの、
小腸の傷病により人工肛門を造設したときは、大腸の傷病により人工肛門を造設したときと同様の基準を適用して、等級が認定されています。
①人工肛門を造設したもので、パウチによる維持管理が困難なものは5級3号が認定されます。
パウチによる維持管理が困難とは、大腸の内容が漏出することで、大腸皮膚瘻周辺に著しい皮膚のただれ、びらんを発症し、パウチの装着ができないものを言います。
②人工肛門を造設したものは、7級5号が認定されます。
人工肛門は、大腸と、小腸の傷病により造設されるものがあるが、いずれも排便の機能を喪失したものであり、同様の基準で認定されています。
人工肛門を造設した際の人工排泄口をストマ、便を収容する袋をパウチと呼んでいます。
4)小腸に、腸管癒着を残すもの
狭窄とは、閉塞にまでは至らない腸管の通過障害のことですが、小腸に狭窄が認められるときは、腹痛、腹部膨満感、嘔気、嘔吐などの症状が出現します。
小腸に狭窄があることは、上記の症状が、医師により認められること、単純XPで小腸ケルクリング襞像が認められることで認定されています。
1カ月に1回程度腸管の癒着に起因する腸管狭窄の症状が認められるものは、腸管狭窄を残すものとして11級10号が認定されています。
上記の考え方は、小腸のみならず大腸に通過障害が生じた場合にも適用されています。
参考までに、大腸に狭窄が認められるときは、腹痛や腹部膨満感の症状が出現します。
大腸に狭窄があることは、単純XPで貯留した大量のガスにより結腸膨起像が相当区間で認められることで認定されています。
※ケルクリングひだ
小腸の壁は粘膜、粘膜筋板、粘膜下層、筋層、漿膜と続き、粘膜面には横走する多数の皺襞、しゆうへき=ケルクリングひだ、輪状ひだが存在しています。
ケルクリングひだは、空腸では丈高く密に並んでいますが、回腸では丈も低く、配列もかなり粗となっています。
この記事を書いた人
弁護士法人江原総合法律事務所
埼玉・越谷地域に根差し、交通事故に豊富なノウハウを持つ江原総合法律事務所の弁護士までご相談下さい。交通事故分野における当事務所の対応の特徴は、「事故直後」「後遺症(後遺障害)の事前認定前」からの被害者サポートです。適切なタイミングから最適なサポートをいたします。