218 実質臓器 肝損傷 (かんそんしょう)
肝臓は、右上腹部に位置する体内最大の臓器です。
重さは成人で1200~1400gあり、心臓から送り出される血液量の25%に相当する1分間に1000~1800mlの血液が流れ込んでいます。
肝臓は判明しているだけで500種類の働きをしていますが、大きくは4つの機能に要約されています。
①胆汁の生成と分泌
②炭水化物、脂肪、蛋白、ビタミンの代謝・合成・分泌・貯蔵
③胃、腸管から血液中に侵入した細菌や異物の補足
④生体異物、薬物などの代謝
人間の生命維持活動に重要な機能を果たしているのですが、5分の4を切除しても、やがて元の大きさに戻るという他の臓器にない復元力も備えています。
交通事故では、バイクの運転者が転倒・衝突する、車やバイクに歩行者がはねられ、腹部を強打することにより肝損傷をきたしています。
さらに、肝臓は容積が大きく、被膜が薄いことから強打で損傷を受けやすく、腹腔内臓器の中では、もっとも損傷されることが多い臓器となっています。
肝臓には、肝臓動脈と門脈の2つの大きな血管から血液が流入し、静脈血は2本の肝臓静脈を通じて下大静脈に流出しています。
肝臓は血流が豊かであり、胸部大動脈や下大静脈など、太い血管と接しているところから、損傷レベルによっては、大出血および出血性ショックが予想されるのです。
※日本外傷学会における肝損傷の分類
Ⅰ型 被膜下損傷
肝被膜の連続性が保たれているものであり、腹腔内出血を伴わないもの
①被膜下血腫
②中心性破裂
Ⅱ型 表在性損傷
深さ3㎝以内の損傷であり、深部の太い血管、胆管の損傷はなく、死腔を残さず縫合が可能なもの
Ⅲ型 深在性損傷
深さ3cm以上の深部に達している損傷であり、単純型では、組織挫滅が少なく、組織の壊死を伴わないもの、
複雑型は、挫滅、壊死が認められ、循環動態の不安定を伴います。
①単純型
②複雑型
肝損傷における後遺障害のポイント
1)交通事故による肝損傷では、後遺障害を残さないのが通常です。
ウイルスの持続感染が認められ、かつGOT・GPTが持続的に低値を示す肝硬変では、9級、
ウイルスの持続感染が認められ、かつGOT・GPTが持続的に低値を示す慢性肝炎では、11級、
これは、医療従事者の針刺し事故などによるウイルス性の慢性肝炎、これに由来する肝硬変や肝癌を想定した労災保険の認定基準であり、輸血によるB、C型肝炎に感染することを予想して掲載したものですが、現在では、献血用血液から感染血液を除くスクリーニング法が採用されており、輸血後肝炎の発症は激減しています。もっとも、完全に消滅したのではありません。
さらに、GOTはAST、GPTはALTに、呼び方が変更されています。
AST、ALTのいずれも、基準値は、30 IU/L以下です。
※AST、ALT
AST、ALTは、どちらもトランスアミナーゼと呼ばれる酵素で、人体の構成要素であるアミノ酸をつくる働きをしています。トランスアミナーゼは肝細胞中に多く存在しているため、主に肝細胞傷害で血中に逸脱し、酵素活性が上昇します。
このため肝機能検査と呼ばれ、広く使用されています。
ASTとALTの違いは由来する臓器の違いです。
ALTは主に肝臓に、ASTは肝臓のみならず心筋や骨格筋、赤血球などにも広く存在しています。
AST、ALTがともに高値、あるいはALTが単独で高値では、肝障害の可能性が高くなります。
ASTが単独で高値では、心筋梗塞や筋疾患、溶血性貧血など肝臓以外の疾患が予想されます。
2)Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの単純型では、出血を止めるとともに、肝部分切除や縫合等の治療が行われています。
肝臓は、相当部分を亡失したときでも、比較的短期間で再生するところから、術後、肝臓の機能が低下したとしても、症状固定段階では、機能は正常に回復するとされています。
Ⅲの②複雑型で、止血ができないときは、死に至るので、後遺障害の議論になりません。
この記事を書いた人
弁護士法人江原総合法律事務所
埼玉・越谷地域に根差し、交通事故に豊富なノウハウを持つ江原総合法律事務所の弁護士までご相談下さい。交通事故分野における当事務所の対応の特徴は、「事故直後」「後遺症(後遺障害)の事前認定前」からの被害者サポートです。適切なタイミングから最適なサポートをいたします。