206 心膜損傷、心膜炎 (しんまくそんしょう、しんまくえん)

心膜は、心臓を包み込んでいる二重の膜で、内側を心内膜、外側を心外膜と言います。

心内膜と心外膜の間隙は、心膜腔と呼ばれ、15ml程度の心膜液で満たされています。

 

心膜には、以下の3つの役割があります。

①心臓の過剰な動きを制御する、

②心臓の過度の拡張を防止する、

③肺からの炎症の波及を防止する、

さらに心膜液は、二重の心膜間での摩擦を軽減しているのです。

 

心膜損傷は、交通事故や高所からの転落により、相当に大きな外力や剪断力が胸郭に働いたときに発症すると想定されています。

 

心膜損傷では、心膜の炎症であり、しばしば心膜液の貯留を伴います。

外傷を原因として、心膜に炎症が起きると、心膜炎と呼ばれる状態になります。

症状としては、胸部痛や発熱、胸部圧迫感を訴えます。

 

心膜炎が起こると心膜液が増えて心臓を周りから圧迫し、心臓の拡張を妨げることがあり、短期間に大量の心膜液が貯留すると、心タンポナーデ、重篤な症状に至ります。

 

診断は、症状、心膜摩擦音、心電図変化およびXPまたは心エコーによる心膜液貯留を検査します。

治療は一般的には、鎮痛薬、抗炎症薬の投与、改善が得られないときは、オペが選択されます。

 

※心タンポナーデ

心膜腔の限られた空間に、大量に心膜液が貯留すると、心嚢内の圧が上昇し、心臓の拡張が障害され、全身に送る血液量が少なくなる状態のことをいいます。

症状としては、呼吸困難、胸痛、チアノーゼなどで、放置すると死に至ります。

心破裂や大動脈解離によって、血液が心膜腔に流入、心タンポナーデを発症することもあります。

 

心膜損傷、心膜炎における後遺障害のポイント

 

1)外力により心膜が損傷することは予想されるのですが、心膜が損傷しても、心臓に大きな損傷がないときは、心膜の損傷は治療されないことが多数例のようです。

また、心筋挫傷で、外科的治療を行ったときでも、心膜の開口部は閉鎖しないこともあります。

 

心膜に開口部を残し、心機能に障害を残すときは、後遺障害の対象となりますが、心機能に障害を残すことは少なく、心膜損傷の傷病名と心膜に開口部を残すだけでは、後遺障害の認定はありません。

 

2)ただし、心膜が損傷したことにより、心臓の一部が脱出・嵌頓したときは、心筋や冠動脈を圧迫、損傷することがあります。

これらは、心筋や冠動脈の障害を立証することで、等級の認定を得ることになります。

※嵌頓、かんとん、嵌頓ヘルニア

腸管などの内臓器官が、腹壁の間隙 から脱出し、元に戻らなくなった状態のことです。

 

3)心膜の器質的損傷、肥厚、癒着などにより、心臓機能が障害されることがあります。

これは心膜が心臓の拡張を妨げているからであり、心機能の障害のレベルを立証し、等級の認定を得ることになります。

つまりは、心筋梗塞の症状に準じて、障害の程度が審査されています。

当然のことながら、心膜の器質的損傷は画像所見により確認でき、心機能の低下をもたらすことが、検査で証明されている必要があります。

 

4)心膜の器質的損傷、肥厚、癒着などにより、心臓機能が障害されているときは、心膜の切除などで、障害の軽減が実現できることが知られており、治療現場では、積極的に手術適応とされているようです。

心膜の器質的損傷、肥厚、癒着などを残し、心機能の低下による運動耐容能の低下が軽度にとどまるものは、11級10号が認定されています。

心膜の器質的損傷、肥厚、癒着などを残し、心機能の低下による運動耐容能の低下が中等度にとどまるものは、9級11号が認定されています。

 

この記事を書いた人

弁護士法人江原総合法律事務所

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