183 上腕神経叢麻痺 (じょうわんしんけいそうまひ)

上肢手指の後遺傷害では、上腕神経叢麻痺が最も重症例です。
本来は、頚椎神経根の引き抜き損傷ですから、自賠責保険では、脊椎・脊髄のカテゴリーの分類としていますが、症状が上肢に集中するところから、ここでは、上肢の障害として取り上げています。

全型の引き抜き損傷では、肩・肘・手関節の用を廃し、手指もピクりとも動きません。
1上肢の用廃で5級6号が認定される深刻な後遺障害となります。

上肢、手の運動は、頚髄から出ている5本の神経根、C5頚髄神経根からT1胸髄神経根を通過して、各々の末梢神経に伝えられており、左鎖骨下動脈部を指で圧迫すると、左上肢が痺れてくるのは鎖骨下動脈の下に、上肢に通過している5本の上腕神経叢が存在しているからです。
指で圧迫しなくても痺れを発症していれば、胸郭出口症候群と呼ばれています。
上腕神経叢麻痺は、単車・自転車で走行中の事故受傷で、肩から転落した際に側頚部から出ている神経根が傷害を受けることで発症するケースがあります。

 

 

C5頚髄神経は肩の運動、

C6頚髄神経は肘の屈曲、

C7頚髄神経は、肘の伸展と手首の伸展、

C8頚髄神経は手指の屈曲、

T1胸髄神経は、手指の伸展をそれぞれ分担しています。

 

 

これらの神経根が事故受傷により引きちぎられるのですから、握力の低下に止まらず、支配領域である上肢の神経麻痺という深刻な症状が出現します。

 

 

 

①脊髄から神経根が引き抜ける損傷が最も重篤で予後不良ですが、引き抜き損傷であれば、脊髄液検査で血性を示し、CTミエログラフィー検査で、造影剤が漏出、立証は簡単です。

そして、引き抜き損傷では、眼瞼下垂、縮瞳および眼球陥没のホルネル症候群を伴う可能性が大となり、手指の異常発汗が認められます。

 

②次に、神経根からの引き抜きはないものの、その先で断裂、引きちぎられるものがあります。

断裂では、ミエログラフィー検査で異常が認められず、ホルネル症候群も、異常発汗を示さないこともあります。

このケースでは、脊髄造影、神経根造影、自律神経機能検査、針筋電図検査等の電気生理学的検査、MRI検査などで立証することになります。

 

③神経外周の連続性は温存されているのに、神経内の電線、軸索と言いますが、これのみが損傷されているのを軸索損傷と呼び、このケースであれば、3カ月位で麻痺が自然回復、後遺障害の対象ではありません。

 

④神経外周も軸索も切れていないのに、神経自体がショックに陥り、麻痺している状態があります。

神経虚脱と呼ばれていますが、3週間以内に麻痺は回復、これも後遺障害の対象ではありません。

 

治療は、受傷後、できるだけ早期に神経縫合や肋間神経移行術、神経血管付筋移行術を受けることになります。なぜなら、6カ月以降に手術をしても、筋肉が萎縮し、例え神経が回復しても充分な筋力が回復できないからです。

当然、手の専門医の領域ですが、予後は不良です。

上肢の機能の実用性を考慮して、等級の評価が行われています。

 

手の痺れや、握力の低下が認められる、頚椎捻挫の被害者の診断書に、腕神経叢麻痺の傷病名が記載されていることがありますが、治療内容は理学療法、ビタミン剤の内服が中心で、一般的な頚椎捻挫と何ら変わりません。

正しい診断でも、軸索損傷や神経虚脱であれば、後遺障害を残すことなく改善します。

そして、通常の頚椎捻挫で、腕神経叢麻痺が起こることはあまり考えられません。

 

上腕神経叢麻痺における後遺障害の後遺障害のポイント

 

1)治療が可能となるのは、限られた手の外科の専門医の領域ですが、少なくとも、受傷から6カ月以内に適切なオペがなされないと、回復は期待できず、深刻な後遺障害を残すようです。

 

2)後遺障害等級

①全型の引き抜き損傷では、肩・肘・手関節・手指の用廃であり、1上肢の用廃で5級6号が、

②C6~T1の引き抜き損傷では、1上肢の2関節の用廃で6級6号、手指の用廃で7級7号となり、併合のルールでは2等級引き上げで、併合4級となりますが、一上肢を手関節以上で失ったものにはおよびませんので、併合6級が、

③C7~T1の引き抜き損傷では、手関節の機能障害で10級10号、5の手指の用廃で7級7号、併合のルールでは5級になりますが、一上肢の2関節の用廃にはおよびませんので、併合7級が、

④C8~T1の引き抜き損傷では、5の手指の用廃で7級7号が認定される可能性があります。

 

3)自賠法のルールでは、上記の通りですが、本件の傷病であれば訴訟で決着することが一般的です。

自賠責保険の認定等級に縛られるのではなく、実際の上肢の機能の実用性を検証して、きめ細かく損害賠償請求を行うべきと考えています。

 

 

 

この記事を書いた人

弁護士法人江原総合法律事務所

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