59 脊柱の圧迫骨折 その1
自動車の横転や転落、バイク、自転車の転倒で、尻もちをついたときの衝撃により発症するケースが多いです。
つまり、脊椎を構成する椎体に縦方向の重力がかかると、上下に押し潰されて圧迫骨折するのです。 好発部位は、第11胸椎、Th11~第2腰椎、L2です。
XPの側面像では、脊椎の椎体前方、腹側が、楔状変形しているのが確認できます。
骨粗鬆症が進行している高齢者では、軽微な追突事故であっても、その衝撃で、胸椎や胸椎と腰椎の移行部で圧迫骨折を発症することがあります。
このようなケースでは、後遺障害が認定されたとしても、損害賠償の金額を算定する上では、素因減額(もともとあった症状が原因に寄与している場合、その分を減額するか、という議論)が問題とされることになります。
では、圧迫骨折をすると、骨折の形状は、永久に変化しないのでしょうか。骨を構成する組織は、毎日、吸収=壊されては、新しく作られています。
圧迫骨折でも、若年者であれば、時間の経過で仮骨が形成され、形状がやや戻ることがあります。
骨粗鬆症は、新陳代謝のバランスが崩れ、吸収=壊される骨が、新しく作られる骨よりも多くなってしまう疾患のことで、骨密度が減少し骨が脆くなります。
治療は、骨折部が安定していれば、入院下でギプスやコルセットで固定し仮骨形成を待ちます。
骨折部位が不安定なときは、手術が選択されています。 上肢や下肢に麻痺が残ったときは、装具の装用や、リハビリ治療で改善を目指します。
高齢者に起こる圧迫骨折では、治療は短期間のベッド上の安静で骨癒合を待ちますが、コルセッ卜やギプスを巻いて、体動時の痛みを和らげます。
椎体の骨折の程度が大きく、骨片が椎体の後方の脊髄や神経根を圧迫し、下肢の感覚を失う、力が入らないときは、手術で圧迫された神経を解放します。 骨粗鬆症のレベルが高く、数カ月を経過しても骨癒合が得られず、疼痛が緩和しないときは、人工骨や骨セメントを骨折部へ注入する治療が行われています。
① ② ③
①骨折部分にバルーンの挿入 →②バルーンを膨らませ骨折部を持ち上げる →③青セメントを充填
脊柱の圧迫骨折における後遺障害のポイント
1)圧迫骨折を脊柱の変形と捉えると
脊柱の変形障害については、
①脊柱の著しい変形を残すもの、
②脊柱に中程度の変形を残すもの、
③脊柱に変形を残すもの、
上記の3段階で等級が認定されており、脊柱に中程度の変形を残すものが新たに追加されました。
最も症例の多い、「脊柱に変形を残すもの、」は、次のいずれかに該当するものです。
□脊椎圧迫骨折等を残しており、そのことがXP等により確認できるもの、
□脊椎固定術が行われたもの、
□3椎以上の脊椎について、椎弓切除術等の椎弓形成術を受けたもの
ムチウチでも、頚腰部の可動域制限を訴える被害者がいますが、脊柱の変形や運動障害で後遺障害等級が認定されるには、脊柱の圧迫骨折、破裂骨折が認められること、もしくは、脊椎の固定術が実施されていなければなりません。
2)圧迫骨折のレベル
圧迫骨折では、椎体の 25 %以上の圧壊が認められることが等級認定の要件です。
日本骨形態計測学会・日本骨代謝学会・日本骨粗鬆症学会・日本医学放射線学会・日本整形外科学会・日 本脊椎脊髄病学会・日本骨折治療学会による椎体骨折評価委員会は、「椎体骨折評価基準」を定めています。
2012年度の改訂版によれば、C/A、C/Pのいずれかが0.8未満、またはA/Pが0.75未満の場合を椎体骨折と判定しています。
椎体の高さが全体的に減少する、扁平椎では、上位または下位のA、C、Pより各々が20%以上減少しているときを椎体骨折とするとしています。
椎体骨折の形状には、椎体の前縁の高さが減少する楔状椎、椎体の中央がへこむ魚椎、椎体の全体にわたって高さが減少する扁平椎の3つがあります。
外傷性の圧迫骨折は、圧倒的に楔状椎変形ですから、A/P比で25%以上と解説しています。
椎体が、わずかに凹変形したものも、医学的には圧迫骨折ですが、等級の認定は原則としてありません。
また、11級7号の認定を受けたケースであっても、稼働能力に影響が無いとして、保険会社側は、逸失利益の存在を強く争ってきます。
この場合、経験的には、訴訟を選択しても、通常は、12級相当を前提とした逸失利益を認定してもらうことが限界のように感じています(また、その期間についても、67歳までが常に認められるわけではなく、特に若年者については、時間の経過に伴い、次第に稼働能力が回復することを前提にした認定が検討されます。)
3)新鮮骨折か、陳旧性か
骨粗鬆症の高齢者では、尻もちをついただけでも脆弱性の圧迫骨折を発症することがあります。
そこで調査事務所は、新鮮な骨折か、それとも陳旧性のものかに注目しています。
陳旧性と判断されたときは、等級は非該当になります。
第11胸椎圧迫骨折
T1強調画像 T2強調画像
新鮮な圧迫骨折のMRIでは、椎体は出血により他の椎体と違う濃度で描出されます。
元からあった陳旧性骨折か、新鮮骨折かの判断は、受傷直後のMRIで判断ができるのです。
上記は、62歳女性の第11胸椎圧迫骨折のMRI画像、新鮮骨折ですが、左のT1強調画像では、黒く描出されており、右のT2強調画像では、一部が白く描出されています。
このことを専門的には、T1強調において低輝度、T2強調において高輝度がみられると言います。
圧迫骨折では、受傷直後のMRIにより、新鮮骨折であることを証明しておかなければなりません。
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この記事を書いた人
弁護士法人江原総合法律事務所
埼玉・越谷地域に根差し、交通事故に豊富なノウハウを持つ江原総合法律事務所の弁護士までご相談下さい。交通事故分野における当事務所の対応の特徴は、「事故直後」「後遺症(後遺障害)の事前認定前」からの被害者サポートです。適切なタイミングから最適なサポートをいたします。