299 言語の機能障害 反回神経麻痺

人の発声器官は咽頭です。
咽頭には、左右の声帯があり、この間の声門が、筋肉の働きで狭くなって、呼気が十分な圧力で吹き出されると、声帯が振動し、声となるのです。

 

閉じた状態           開いた状態

この声は、口腔の形の変化によって語音に形成され、一定の順序に連結されて、初めて言語となります。 語音を一定の順序に連結することを綴音というのです。

 

語音はあいうえおの母音と、それ以外の子音とに区別されます。

子音はさらに、口唇音・歯舌音・口蓋音・咽頭音の4種に区別 されます。

4種の子音とは、

①口唇音(ま、ぱ、ば、わ行音、ふ)

②歯舌音(な、た、だ、ら、さ、ざ行音、しゅ、じゅ、し)

③口蓋音(か、が、や行音、ひ、にゅ、ぎゅ、ん)

④咽頭音(は行音)です。

 

反回神経麻痺

 

ヒトが発声するときは、左右の声帯が中央方向に近寄って気道が狭まり、呼気により声帯が振動することにより発声しています。また、食物を飲み込む=嚥下するときには、嚥下したものが気管に入り込まないように左右の声帯は強く接触して気道を完全に閉鎖しているのです。

このような声帯の運動性は、反回神経によりコントロールされています。

 

反回神経麻痺では、息もれするような声がれや、誤嚥、むせるといった症状を引き起こします。

両側の反回神経を損傷すると、左右の声帯が中央付近で麻痺して動かなくなり、気道が狭まり、呼吸困難や喘鳴(ぜんめい)、ゼーゼーした呼吸音を生じます。

 

 

 

 

反回神経は、脳から伸びる迷走神経の枝であり、声帯を動かす働きをしています。

この神経は、脳からダイレクトに喉頭にジョイントするのではなく、肺の内側の縦隔まで下行して走行した後、反回して、長いルートをたどり、最終的に喉頭の声帯に到達して喉頭筋を支配しているのです。

 

交通事故では、咽頭部に対する強い打撃、頚椎の脱臼や椎体骨折、頭部外傷、縦隔気腫に合併しています。

その他に、気管挿管もしくは抜去するときに、声帯の披裂軟骨を脱臼するなど声帯に損傷を受けることにより、かすれ声=嗄声(させい)を残すことがありますが、これは、反回神経麻痺ではありません。

 

初発症状は、声がれですが、脳幹に近い頭部外傷では、舌咽神経や副神経などの他の脳神経が近くを走行しており、声がれ、飲食でむせる以外に、声が鼻にもれる、飲み込んだときに鼻へ逆流する舌咽神経麻痺の症状、副神経の症状により、肩が痛い、肩が上がりにくいなどを合併します。

 

検査では、ファイバースコープで、声帯の動きを観察し、診断されています。

原因を特定するには、頚部、胸部のXP、CT、食道造影、上部消化管内視鏡検査などが行われます。

その他に、筋電図や発声時のX線透視検査を行って鑑別されています。

筋電図検査は、麻痺の程度や回復の見込みを判断する上で、極めて有用な検査です。

 

 

反回神経麻痺における後遺障害のポイント

 

①言語の機能を廃したものとは先の4種の語音のうち、3種以上の発音が不能になったものであり、3級2号が認定されます。

 

②言語の機能に著しい障害を残すとは、4種の語音のうち2種が発音不能になったもの、または綴音機能に障害があり、言語では意思を疎通させることができないものであり、6級2号が認定されます。

 

③言語の機能に障害を残すものとは、4種の語音のうち1種の発音不能のものであり、10級3号が認定されます。

 

④声帯麻痺による著しいかすれ声は、12級相当となります。

 

咀嚼の機能の著しい障害=6級2号と言語機能の障害=10級2号の組み合わせは併合して5級相当となります。

咀嚼の機能の用を廃したもの=3級2号と言語の機能の著しい障害=6級2号の組み合わせは併合すると1級になりますが、これでは序列を乱すことになり、2級相当が認定されます。

 

2)頭部外傷後の高次脳機能障害では、失語症が言語障害に該当するのですが、脳の言語野が損傷されることにより、聞くこと、話すこと、読むこと、書くことの全てが障害されるものです。

言いたい言葉が思い出せない、相手の言葉を理解することができない、モノの名前を思い出すことができない、これらの3つが代表例ですが、高次脳機能障害が失語症のみにとどまることはなく、他に、認知症などを合併することから、全体像で等級が認定されています。

つまり、高次脳機能障害による失語症では、先の認定基準の適用はありません。

また、高次脳機能障害では、全く声の出なくなる失声症も発生しています。

 

3)反回神経麻痺などで予想される後遺障害は、かすれ声、嗄声(させい)が代表的です。

事故後、かすれ声を残したときは、耳鼻咽喉科における咽頭ファイバースコープで、他覚的所見を立証しなければなりません。

 

咽頭部への直接的な打撃や気管挿管もしくは抜去するときの、声帯の披裂軟骨脱臼では、咽頭ファイバースコープで発見できないことが予想されます。

そんなときは、筋電図や発声時のX線透視検査で立証しなければなりません。

 

整形外科医が作成した後遺障害診断書で、傷病名が頚部捻挫、自覚症状欄に、右上肢の痛み、重さ感、だるさ感、かすれ声、画像所見欄に、MRIにて、C5/6右神経根の圧迫を認め、上記の自覚症状と画像所見は一致していると記載されていても、認定されるのは、14級9号がやっとです。

かすれ声は、耳鼻咽喉科における検査で他覚的所見が立証されることで12級相当が認定されることを承知しておかなければなりません。

 

 

 

 

この記事を書いた人

弁護士法人江原総合法律事務所

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